この記事で伝えたいこと
お気に入りのお店が閉店して、「あの店、便利だったのに」と思った経験はありませんか? 好きなお店を長く利用し続けるために、買い物だけでなく、そのお店のファンを増やしていく。そんな「お店の推し活」に通じる海外の取り組みを紹介します。
- 「あの店、便利だったのにな」と思ったことはありませんか?
- 1.イギリス「JUST A CARD」――褒めるだけでは、お店は続かない
- 2.イギリス「Totally Locally」――週5ポンドから始める応援
- 3.アメリカ「The 3/50 Project」――なくなってほしくない3軒を選ぶ
- 4.ドイツ「Heimat shoppen」――お気に入りのお店は、地域の魅力そのもの
- 5.フランス「J’aime mon commerce」――好きなお店を、みんなで応援する
- 6.イタリア「Acquisto locale, una scelta che vale」――買い物は地域の未来を選ぶこと
- お店のファンが増えれば、みんなが得をするかもしれない
- 自分で買うだけが、応援ではない
- 地域経済のため、というよりも
- 「なくなって残念」になる前に
「あの店、便利だったのにな」と思ったことはありませんか?
いつも利用していたお店が、ある日突然なくなってしまう。
「あそこの商品、気に入っていたのに」「店員さんが親切で、相談しやすかったのに」「ちょっと不便になるなぁ」。
そんな経験をしたことがある人は、少なくないのではないでしょうか。
飲食店でも、洋服屋さんでも、昔ながらの商店でも、自分にとって使い勝手が良く、気に入っていたお店がなくなるのは残念なものです。でも、閉店してから惜しんでも、なかなか元には戻りません。
それなら、気に入っているお店がなくならないように、私たち自身ができることはないのでしょうか。
私が思うのは、好きなお店を積極的に応援すること。いわば、「お店の推し活」です。
もちろん、自分でそのお店を利用することが基本です。とはいえ、必要もない商品を買ったり、無理に利用回数を増やしたりするのでは、今度は自分の負担になってしまいます。
そこで大切になるのが、もう一つの応援方法。自分がお店のファンになるだけでなく、そのお店のファンを増やしていくことです。
実は海外にも、こうした考え方に通じる市民運動がいくつも存在しています。今回は、その興味深い事例をご紹介したいと思います。
1.イギリス「JUST A CARD」――褒めるだけでは、お店は続かない
イギリスでは、2015年頃から「JUST A CARD(ジャスト・ア・カード)」という草の根運動が行われています。活動を始めたのは、デザイナーのサラ・ハミルトンさん。
きっかけは、閉店したギャラリーの経営者が残した、ある言葉でした。
素敵なギャラリーだと褒めてくれた人たちが、せめてカードを1枚ずつ買ってくれていたなら、閉店せずに済んだのに。
この言葉に心を動かされたサラさんは、個人商店や作家たちを応援する運動を始めました。「JUST A CARD」という名前には、たった1枚のカードでも、その買い物がお店にとって大切な売上になる、という意味が込められています。
「素敵なお店ですね」と声をかけることも、もちろん嬉しいことでしょう。でも、経営を続けるには売上が必要です。いくら褒められても、商品が売れなければお店は続けられません。
だからといって、この運動は無理な買い物を求めているわけではありません。自分が買い物をするだけでなく、友人や家族に魅力を伝えたり、SNSで紹介したりすることも応援になります。
「いいお店だと思う」から、「いいお店だから応援する」へ。 ちょっとした意識の変化ですが、とても大切なことだと思います。
2.イギリス「Totally Locally」――週5ポンドから始める応援
同じイギリスには、2010年頃に始まった「Totally Locally(トータリー・ローカリー)」という取り組みもあります。
特に興味深いのが、「週に5ポンドだけ、地元のお店で買い物をしよう」という呼びかけです。
地元のお店を応援したいと思っていても、大型スーパーやネット通販の便利さを手放すのは難しいもの。そこで、この運動は買い物をすべて地元の商店に切り替えようとは言いません。
いつもの買い物の中から、週に5ポンド分だけ地元のお店に振り向けてみる。しかも、余計に5ポンドを使うのではなく、普段の支出の一部を移すだけでよいのです。
例えば、いつもスーパーで買っているパンを、たまには近所のパン屋さんで買ってみる。そんな小さな行動で構いません。新しいお気に入りのお店を見つけるきっかけにもなりそうです。
この運動からは、各地の個人商店が協力して買い物の楽しさを伝える「Fiver Fest」という企画も生まれました。2019年の全国規模の企画には、イギリス国内の37の町と数百の事業者が参加しています。なお、Fiver Festは現在休止中と案内されています。
この考え方の良いところは、誰かに我慢や犠牲を強いるのではなく、無理なくできる範囲で参加できることでしょう。お店を応援することが義務になってしまっては、長続きしません。
気負わず、気軽に、楽しみながら。そんなところに、この運動の魅力を感じます。
参考:Totally Locally:Fiver Festの実績(外部サイト)
3.アメリカ「The 3/50 Project」――なくなってほしくない3軒を選ぶ
アメリカでは2009年に、「The 3/50 Project(スリー・フィフティ・プロジェクト)」という運動が始まりました。
この活動で最も印象的なのが、消費者への問いかけです。
「もしなくなってしまったら、あなたが困る、寂しくなると思うお店を3軒選んでください」
そして、毎月合計50ドルを、そうしたお気に入りの店舗をはじめとする地域の独立系商店で使おうというものです。発起人は元小売店経営者のシンダ・バクスターさん。
この取り組みには地域経済を支えるという目的がありますが、私が特に共感したのは「なくなってほしくない店を選ぶ」という部分です。
「地域の商店を守りましょう」と言われても、少し抽象的で、自分とは関係のない話に感じる人もいるでしょう。でも、「なくなったら困るお店はありませんか?」と聞かれれば、具体的なお店の顔が浮かぶのではないでしょうか。
お気に入りの喫茶店、いつも相談に乗ってくれる専門店、おいしいものを売っている個人商店。そのお店をこれからも利用できるかどうかは、私たち自身の買い物とも無関係ではありません。
お店の存続を、経営者だけの問題ではなく、利用する側の問題として考えてみる。 とてもシンプルですが、面白い発想だと思います。
参考:The 3/50 Project:公式案内(外部サイト)
4.ドイツ「Heimat shoppen」――お気に入りのお店は、地域の魅力そのもの
ドイツでは2014年から、商工会議所が中心となって「Heimat shoppen(ハイマート・ショッペン)」という運動が広がっています。直訳すれば「ふるさとで買い物をする」といった意味でしょうか。
この運動では地域のお店を、商品を販売する場所としてだけでなく、まちの魅力や暮らしを支える存在として捉えています。身近なお店が営業していれば、日々の買い物が便利になるだけでなく、まちを歩く楽しみも増えます。
2026年9月、ドイツのグレーヴェンという町では、「私のお気に入りのお店」を撮影して紹介する写真コンテストも実施されました。お客さんが気に入ったお店を写真で紹介し、地域のホームページやSNSでも取り上げる取り組みです。
自分の好きなお店を、ほかの人にも知ってもらう。まさに、「お店の推し活」に通じる活動です。
地域のお店がなくなるということは、買い物先が一つ減るだけではありません。そこにあった独特の雰囲気や、店主との会話、地域の人たちが集まる場所も失われることがあります。
お気に入りのお店を残すことは、自分が好きなまちの風景を残すことでもある。 そんなことを考えさせられます。
参考:Heimat shoppen:グレーヴェンの2026年の企画(外部サイト)
5.フランス「J’aime mon commerce」――好きなお店を、みんなで応援する
フランスのパリでは2019年に、商工会議所が「J’aime mon commerce(ジェーム・モン・コメルス)」というキャンペーンを始めました。「私は自分の街のお店が好き」といった意味でしょうか。
社会的な混乱などで打撃を受けた商店を支えようと始まった活動で、消費者に地元の商店へ足を運んでもらうとともに、SNSなどを通じてお店を紹介することも呼びかけました。
特に興味深いのは、商業を単なる経済活動ではなく、人と人がつながる場としても捉えていることです。
店員さんと何気ない会話をする。商品のことを相談する。いつものお客さんと顔を合わせる。大きなお店にも良さはありますが、小さな個人商店ならではの魅力もあります。
商品だけでなく、お店そのものや、そこで働く人の人柄が好きになることもあるでしょう。その価値を利用する人自身が周囲に伝えていく。そうしてファンが増えれば、お店が続いていく可能性も高まります。
参考:パリ商工会議所:J’aime mon commerce(外部サイト)
6.イタリア「Acquisto locale, una scelta che vale」――買い物は地域の未来を選ぶこと
イタリア北西部のピエモンテ州では、2020年12月から翌年2月にかけて、「Acquisto locale, una scelta che vale」というキャンペーンが展開されました。「地元で買う、それは価値ある選択」といった意味です。
衣料品店や食料品店、花屋、書店など、さまざまな地域商店での買い物を呼びかけた運動です。メッセージの一つが、「違いを生み出せるのは、あなたです」というもの。
ここで伝えようとしているのは、一人ひとりの買い物の選択が、地域の暮らしにも影響を与えるという考え方です。地域のお店が営業を続けることで、そこで働く人の雇用が守られたり、まちなかの賑わいが保たれたりします。
もちろん、一人が買い物先を変えただけで、まち全体が劇的に変わるわけではありません。しかし、同じような行動をする人が少しずつ増えていけば、その積み重ねは決して小さくないはずです。
お店のファンが増えれば、みんなが得をするかもしれない
ここまで紹介した海外の事例には、共通する考え方があります。それは、地域のお店の未来は、経営者の努力だけでなく、利用する側の行動にも左右されるということです。
私は、これをもう少し身近な話として考えたいと思っています。
例えば、自分の好きな店に新しいお客さんが増え、売上が安定してきたとします。すると、お店は商品の品揃えを充実させたり、新商品を開発したり、設備を新しくしたりする余裕が生まれるかもしれません。
その結果、お店の魅力が高まり、さらにお客さんが増える。もちろん、商売はそんなに単純ではありませんし、繁盛すれば必ずそうなるとは限りません。お店自身の努力も欠かせません。
それでも、こうした好循環が生まれる可能性は十分にあります。しかも、これはお店だけの利益ではありません。利用する私たちにとっても、商品やサービスが充実し、お気に入りのお店が長く続いてくれることは、大きなメリットです。
さらに、そのお店が地域の事業者から商品を仕入れたり、地域の人を雇用したりすれば、経済的な効果は周囲にも広がっていきます。
お店が繁盛する。利用者の満足度が上がる。さらにお客さんが増える。そして地域も元気になる。 そんな、みんなが嬉しくなる好循環をつくることができれば、素敵ではないでしょうか。
自分で買うだけが、応援ではない
では、私たちに何ができるのでしょうか。もちろん、気に入ったお店を継続して利用することは大切です。でも、自分一人で買える商品の量には限界があります。必要のないものを買い続けるのは、健全な応援とは言えません。
だからこそ、自分以外のお客さんを増やすことに、もっと目を向けてもいいのではないでしょうか。
今日からできる「お店の推し活」
- 知人との何気ない会話で「あそこのお店、おいしいよ」と伝える。
- 贈答品を選ぶときに、気に入っている地元のお店の商品を使う。
- 友人との食事に、お気に入りのお店を選んで案内する。
- 購入した商品の感想やお店の魅力を、SNSで紹介する。
- 相談を受けたときに、信頼できる専門店を紹介する。
どれも、特別なことではありません。大切なのは、無理に宣伝することではなく、自分が本当に良いと思ったお店を、自然な形で人に伝えることです。
紹介された人も、そのお店を気に入ってくれるかもしれません。その人が別の人に紹介してくれるかもしれません。そうしてファンが広がっていくことは、一人が何度も買い物をするよりも、大きな応援になる可能性があります。
もちろん、お店側も新しく来たお客さんに満足してもらえるよう、努力を続ける必要があります。お客さんが一方的に支える関係ではなく、お店もお客さんの期待に応え、お互いに良い関係を築いていく。それが、長く続く「推し活」の理想なのだと思います。
地域経済のため、というよりも
地域の商店を利用することは、地域経済の活性化につながる可能性があります。でも、それを最初から大きな目的として掲げる必要はないと、私は思っています。
そもそも買い物は、自分や家族の生活のためにするものです。便利だから使う。おいしいから買う。気に入っているから通う。その延長線上に、好きなお店を応援するという行動があってもいいのではないでしょうか。
「地域経済のために、地元のお店で買い物をしましょう」と言われるより、「あなたの好きなお店が、これからもずっと続いてくれたら嬉しくありませんか?」と問いかけられる方が、私はずっと身近に感じます。
大切なのは、大手のお店を利用しないことでも、多少高くても無理して地元で買うことでもありません。私たちの暮らしには、大型店もネット通販も必要です。それぞれに便利さや魅力があります。
そのうえで、自分が大切にしたいお店を、意識して応援する。 それだけでいいのだと思います。
一人ひとりの小さな行動が、お気に入りのお店の経営を支え、やがて地域の商業や雇用にも良い影響を与える。結果として、自分が暮らすまちがもっと便利に、もっと魅力的になっていく。そんな順番で考えてみるのも、悪くないのではないでしょうか。
「なくなって残念」になる前に
お気に入りのお店が閉店したとき、私たちはつい「あの店、よかったのにな」と言ってしまいます。でも、そのお店が営業している間に、どれだけその魅力を周囲に伝えていただろうか。そんなことも、ときには考えてみたいものです。
もちろん、お店の経営にはさまざまな事情があり、ファンの応援だけですべてを解決できるわけではありません。それでも、何もしないよりは、きっとできることがあるはずです。
自分が好きなお店を、これからも利用し続けたい。そのために、少しだけお店のファンを増やしてみる。難しいことを考えなくても、好きな音楽や映画を友人に勧めるのと、同じ感覚でいいと思います。
お気に入りのお店も、推していきましょう。
それが、お店にとっても、自分にとっても、そして地域にとっても、嬉しい結果につながるかもしれません。
あなたにも、「なくなったら困るな」と思うお店はありませんか?

コメント