連載:他国の地方議会って Vol.1
連載:他国の地方議会って Vol.1
日本の地方議会、特に基礎自治体と言われる市町村議会の仕組みって、他の国と比べてどうなの?当の議員自身もそういう仕組みだからと、気にしていない人もいるかもしれませんが、議員報酬に関する議論の際に欧州では~、北欧では~のように引き合いに出される事もしばしばあるので、調べてみよう!となりました。
外国の議会制度を詳細に調べるには、なかなか骨が折れますので、検索エンジンや翻訳アプリ、AIなどを利用しながら調査していきたいと思います。が、いかんせん該当自治体に直接聞いている訳ではありませんので、間違いもあるかもしれません。ここは違うよって指摘があれば、ご連絡いただければ調査後、随時修正していきます。
まずは第1回、ざっくりと欧州諸国と日本の比較をしていきたいと思います。
欧州諸国の地方議員制度は、日本の「職業としての議員(報酬で生計を立てる)」というモデルとは大きく異なり、多くの国で「名誉職」や「ボランティア(兼業)」としての性格が強いのが特徴です。
主なポイントを整理しました。
1. 概要:日本と欧州の決定的な違い
- 欧州(特に独・仏・北欧):
議員は「市民の代表」として、普段は別の職業(会社員、公務員、自営業など)を持ちながら、夜間や休日に議会活動を行う「兼業」が一般的です。そのため、報酬は「給与」ではなく、会議出席への「手当」や「逸失利益の補填(休んだ仕事の分の補償)」という考え方が基本です。
- 英国:
日本と人口比が近く、比較的規模の大きい自治体運営を行いますが、それでも報酬は「手当(Allowance)」であり、生活給(Salary)とは区別されています。
2. 人口あたりの議員数と報酬の比較(目安)
欧州は国によって自治体の規模(合併が進んでいるか、小さな村を残しているか)が全く異なるため、単純比較は難しいですが、傾向は以下の通りです。
| 国名 | 議員1人あたりの人口 | 議員報酬の性格 | 報酬額の目安(一般議員) |
| フランス | 約130人 (非常に多い) | 名誉職・無報酬が基本 | 小規模:無報酬~数万円/月 大規模:10~20万円程度/月 |
| スウェーデン | 約300~700人 (多い) | 逸失利益補償 | 会議1回につき数千円~数万円 (年額では少額) |
| ドイツ | 約400~1,000人 | 名誉職・実費弁償 | 月額 数万円(経費補填) +会議出席手当 |
| イギリス | 約3,300人 (少ない) | 基本手当 (Allowance) | 年額 100万円~250万円程度 (自治体規模による) |
| 日本 (参考) | 約3,800人 (少ない) | 議員報酬 (給与的性格) | 月額 20万~80万円以上 (自治体規模により大きく変動) |
※議員1人あたりの人口:数値が小さいほど「身近に議員がいる(議員数が多い)」ことを意味します。
※日本のデータは総務省資料等に基づく概算です。
3. 各国の詳細な特徴
🇫🇷 フランス:徹底した「近接性」
フランスには約35,000もの基礎自治体(コミューン)があり、全土で約50万人以上の地方議員がいます(日本は約3万人)。
- 仕組み: 人口数十人の村にも議会があります。
- 報酬: 基本的にボランティアです。人口の少ない自治体では無報酬、あるいはわずかな手当のみです。ただし、「市長(メール)」や「副市長」といった執行権限を持つ役職には、それなりの報酬(職務手当)が支払われます。
🇬🇧 イギリス:効率重視と「手当」制
日本と同様に市町村合併が進んでおり、1人の議員が担当する住民数が多い(数千人~1万人)のが特徴です。
- 仕組み: 議会の権限は強いですが、議員活動はパートタイムとみなされます。
- 報酬: 「基本手当(Basic Allowance)」が支払われます。例えば、ロンドン郊外や地方都市の議員で年額1万ポンド~1万5千ポンド(約200万~300万円)程度が多く、これだけで生計を立てることは想定されていません。ただし、議長や委員長などの「責任ある役職(Special Responsibility)」には加算があります。
🇸🇪 スウェーデン:夜間議会と「市民議員」
投票率が高く、住民参加意識が高い北欧モデルです。
- 仕組み: 議会は平日の夕方(18時以降など)に開催されるのが一般的です。これにより、普通の会社員や学生、主婦が仕事を休まずに議員を続けられます。
- 報酬: 「給料」はありません。議会に出席した時間の時給換算や、仕事を早退した場合の「所得補償(ロスト・アーニング)」が支払われます。年間で見ると数十万円程度になることも多いです。
🇩🇪 ドイツ:名誉職(Ehrenamt)の伝統
州によって制度が異なりますが、基礎自治体議員は法律で「名誉職」と定められているケースが一般的です。
- 報酬: 「経費弁償(Aufwandsentschädigung)」として、月額固定の少額の手当(数万円~10万円程度)や、交通費・通信費の実費が支払われます。課税されないケースも多く、あくまで「活動費」という位置づけです。
まとめ:日本への示唆
日本の地方議員制度を欧州と比較すると、以下の特異性が浮かび上がります。
- 議員数は実は少ない:
「日本は議員が多すぎる」という批判がよくありますが、人口比で見ると、フランスや北欧に比べて議員数は圧倒的に少なく、イギリスに近い「効率型」です。
- 報酬は高いが、拘束も強い:
欧州が「兼業・夜間議会・低報酬」であるのに対し、日本は「専業に近い活動・平日昼間の議会・生活給支給」というシステムです。欧州では「普通の市民が仕事の傍らで行う」ものであるのに対し、日本では「政治家という職業」として扱われています。
今回は大まかな比較をしてみました。
次回からは、より詳細な各国の議会の形を紹介していきたいと思います。
